今回お話を伺うのは、大井建設工業株式会社 代表取締役 大井康史さん。修行時代の大手ゼネコンでは100億円規模のプロジェクトを経験してきたそうです。しかし住宅を始めるにあたっては建築を一から勉強し、今では受賞歴多数の「職人さんが自邸を建てる工務店」までになりました。社長の妥協なき想いが、言葉の端々から伝わります。

始まりは現場から

大井建設工業(株)の創業者である父が、現場で重機を操っていた頃の話です。そこで大手不動産会社の社長さんから、「会社を興してみないか」とお声をかけていただいたのがきっかけだと聞いています。独立すると別荘地やゴルフ場といった仕事で、土木から建築まで任せてもらったそうです。大手の厳しいコンプライアンスをクリアすることで信用を得て、会社は公共事業を手がけるまでになりました。そんな父の影響もあり、私は大学で工学部に進学し、卒業後は私も大手不動産建設の会社で修行させていただいたのですが、ここで大きなプロジェクトに携われたことはとても貴重な経験です。

「できるわけない」コストダウン

一般住宅を本格的にやり始めたのは、10数年前からです。当時の大井建設は、品質は良くても「価格が高い」という欠点がありました。さらに「営業マン」や「安く作るノウハウ」もありませんでした。そこで一級建築士かつ現場代理人だった一人の社員に白羽の矢を立て、私と共に営業を担当してもらいました。しかし「コストを安くする」ことは、簡単ではありませんでした。これまで別荘で蓄積したノウハウとは、また違うものを求められました。なぜなら坪単価が全く違うからです。
「できるわけない」と社員には反対されましたね。そこからまず始めたことは、実際に安い物件を見に行くこと。すると使用されている建材などを見て、「意外と良いんじゃないか」という反応に変わっていきました。参考になるアイデアも発見したりして、やってみようかという流れになったんです。

今では年45棟前後を手がけます。

そもそもなぜ「安くするノウハウ」を手に入れようと思ったのか。それは別荘で坪単価100万円のところを、30%削減して70万円にしたかったからです。そうすることで軽井沢での競合に勝とうと。そこで「建築」を一から勉強し直しました。仕入れルートも、独自に開拓しました。もし私がゼネコンに修行に行っていなければ、こうしたチャレンジはきっとしていません。少しずつ手探りで改良しながら、前進していきました。本格的に住宅をやり始めてから、今ではこの地区で年45棟前後を建てるまでになりました。

職人さんが選ぶ工務店

「職人の口コミ部門」優秀賞を受賞

2016年に、職人さんの紹介が多いと言うことで「職人の口コミ部門」優秀賞を受賞しました。つまり当社で自宅を建ててくださった職人さんや大工さん、その子供さんの数です。印象に残っているのが、ある職人さんの弟さんが当社を訪ねてくださった時のことです。お兄さんが当社と仕事をしたことがあるかと聞いても、それがわからない。ただ兄が大井さんの評判を聞いて、「家を建てるならここで建ててもらえ」と紹介されたとおっしゃるんです。その後、実際にお兄さんとお会いしてご挨拶する機会もありましたが、やはり仕事をご一緒したことはありませんでした。へえ、と思いましたね。
自分で意識はしていないが、職人さんからよく言われるのは「しっかりしている」ということ。他の家とは、全然違うと。様々な会社のいろいろな家を知る彼らに選ばれることは、嬉しいですね。

時には厳しいことも、はっきり言い切る。

私がよく言う言葉なんですが、「家づくりって山登りに似ている」んですよ。登山家にとって山に登ることは、大変なことではありません。一番難しいのは、無事に下山することです。同じように住宅も「建てること」そのものより、その後の生活を守ることが肝心なんです。
家を建てる作業は4ヶ月ですが、住宅ローンは30年続きます。だったら、その部分を現実的に見極めないと。そのためには私たちは非常にシビアなことも、はっきり言います。「あなたの『今』より、『30年後』に興味がある」とは、私がよく言う言葉です。
なぜここまで強く言うのか。それは私たちが逃げも隠れもできない、地元の工務店だからです。万が一にも、大切なお客様をローンで破綻させるようなことがあってはならない。ですので、言いづらいことでもはっきり言い切ります。お客様のことを想えばこそ、です。身を削ってまで家を建てても、誰も幸せにはなりません。そこの部分をいかに解っていただくかも、私たちの大切な役割です。

地元の工務店だからこそ

忘れてはならないスタッフへの感謝

お客様とはお引き渡し後も、できるだけコミュニケーションの機会を持ちたいと思っています。フリーマーケットやガレッジセールといったイベントを催すのも、そういう想いからです。直に接することで、聞きにくいことや言いづらいことも、お互い話しやすくなりますね。そしてもう一つ忘れてはならないのが、スタッフへの感謝です。こうしたイベントごとを長く続けていけるのは、スタッフのおかげです。私一人では、とてもできることではありませんから。
実はこうした取り組みの中に、東日本大震災と熊本地震への寄付を募る活動もあります。私にも3.11の被害にあった友人がいるのですが、彼の言った忘れられない言葉があります。「何かするのであれば大金をポンと寄付するのではなく、年に一度ずつ10回に分けて欲しい。そうすることで、忘れ去られないから」。
それ以来、毎年「落語」の会を開いてその収益分を送っています。大したことはできませんが、無理しない範囲で続けていこうと決めています。地域でできることを、地元への恩返しの意味でもやっていきたいですね。

家づくりの技術も、日進月歩です。ZEHにしても当社にとって「今の仕様に太陽光パネルを載せるだけ」くらいですが、さらに良い家を追求していきたいですね。全国にいる仲間たちと切磋琢磨し、いろんな人と会って話して、その繰り返しです。日々勉強、ですね。

取材:2016年12月19日

社名

大井建設工業株式会社

住所〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町馬瀬口1670-74
TEL0267-32-3333
URLhttp://www.ooi-kensetsu.co.jp