建築家はあらゆる事象の理を、広く深く知っていなければいけない。けどそんなの無理だよねと、茶目っ気ある笑顔で話してくださったのは株式会社大和工務店代表、玉井次彦さん。 快適でデザインの良い住宅を、岐阜で40年以上作り続けるベテランです。世界を旅して見つけた、豊かな人生を送るための家づくりとは。

設計が難しい時代になってきている

今はインターネットで全ての情報が手に入るでしょ。つまり、誰もが学者になれてしまう。もちろんお客さんもネットで情報を得るが、何が本当かなんて実のところわからないわけです。情報の真偽が不透明な、混沌とした時代とも言える。

昔はね、大工が昼仕事して夜、図面を描く時代もあったんですよ。けれど、今はそうはいかない。建築は高度に細分化、専門化されてしまったから。設計者は雨漏りから結露から、あらゆることを知っていないといけなくなった。しかもですよ、あの先生はこう言っているが、この先生はああ言っている。アメリカではこうだが、ドイツではこうだ。さらにその土地の気候風土、湿度や温度も大きく関係してくる。もはや人間が介在すればするほど、混沌としてくるんです。

建築というのは長期サイクルで見ないとわからないことばかり。10~20年経ってみて、結果論としてわかるだけでね。 そんな中、多くの建築屋が安心安全を謳っていますが、本当にそうか?地下何十メートルのことまではわかってないのに?

わかってもいないことをわかったような顔で営業をしても、問題が起きるだけ。こっちの家が格好良いと言って買っても、暑かったり寒かったり。そんな例がたくさんあるじゃない。 お客さんは見える部分で判断するからこそ、我々は見えない部分にこそ責任を持たないと。

でも、それは簡単なことじゃないよ。ローマのコロッセオくらいの時代から、既に建築設計は物理学や天文学。全ての知識がないとできないと言われている。40年のキャリアはあるものの、私ごときがやる仕事でもないんだ・・・って、こんな話してていいのかな(笑)?

住宅は個人のお金で建てるから、よりシビアだと思う。さっきも言ったけど、今の時代はお客さんも知識を持っている人が多い。うちにくるお客さんは特にそうですよ。物事に対して、調査能力がある人が多い。逆にそれがない人は、うちまで辿り着かないよ。皆さんずいぶん回り道をしながら、ここに来るようですよ。ネットで見たとか、あるいは紹介とかね。とはいうのものの、どういう経緯でここまできたか僕は知らないし聞かないんだ。毎日設計ばかりやっていて、社長業が下手かもしれない(笑)。

夏涼しくて冬暖かい、デザインの良い家を作っていたら自然とお客様が来てくれるんです。

とにかく、みんな迷った末に飛び込んで来る。ようは駆け込み寺ですよ。
僕は建築家としては変わっているかもしれないね。他者との比較はしないから、他がどうなのか気にしない(笑)。 うちに来てくれたお客さんには、「デザインが良くても寒くちゃ暮らせない」、逆に「快適でもデザインが不細工では永く住めない」という話をします。もちろん、光熱費などのこともきちんと伝える。
まあ、最後は自分の信念に従うだけです。だから時にはお客さんに、あなた間違っていますよと指摘してしまうこともあります。

出来合いの建売住宅で満足できる方は、どうぞそっちでやってくれというスタンスです。
でもね、土地が曲がっていたり三角だったり変わっているなら、うちにいらっしゃい。やりがいはありますし、面白いですよ。

とはいえ苦しい部分もあるんです。たとえ、自分で100点の設計でも、お客様がそう思えなければダメでしょ。そういう意味では、どこまでお互い理解を深めて歩み寄ることができるかですよね。家も人も、一つとして同じものはないんだから。

庭に回れるのが戸建てのいいところ

家は快適な人生を過ごすためのツールに過ぎないんです。しかし「快適な家を作る」と一言で言うのは簡単だけど、そもそも「快適」ってどういうことかをよく考えないと。 例えば日当たりが気になるのは分かるけど、南向きに固執するのはナンセンス。時間によって太陽の位置は変わるからね。

勘違いしてはならないのが、家というのは敷地も含めたものだということ。つまり、土地を見ないと設計はできないわけです。どっかの間取りをね、ポンと置いてはめると言うことは無理。土地の特徴をよく見て、それに合わせて設計する必要があるんです。

あとは「戸建を建てるなら、戸建であることを活かした設計にした方がいいよ」とはよく言います。やっぱり人間は社会的動物だから、いろんな人が訪ねて来やすい家にするという意味だね。昔に較べて今は、家に人を招くことも少なくなったんじゃないかな。家の中に入るのに靴を脱いで、出るときは履く。この動作も、一つのハードルかもしれないよね。外国でホームパーティが盛んなのも、こうした文化の違いが無関係ではないでしょう。

でも、「あがる」というのは玄関からだけではない。構えずに、庭に回れるのが戸建の良いところだと思うんですよ。軒先に椅子がおいてあって、ぼーっとしている風景。ちょっとした空間でゲームなんかして、遊んでいる。そんな感じがいいと思う。いいと思うんだけど、日本にはほぼ無いないね。まあ、設備や娯楽が多すぎるのかもしれないね。

僕は旅行が好きで、いろいろと世界を見て回りました。普通のツアー旅行では満足できないので、自前で行くしかなくなっていますね。

去年は所員を連れて、8日間ドイツに行ってきましたよ。全て自分たちで段取りして、郊外の住宅街を歩いたり住宅展示場を見たり。今って誰でもヨーロッパに行くし、それも知らずに建築の営業なんてできないですよ。エジプトにもイタリアにも、会社で行っていますし、それぞれが勝手に行きもします。その場合は会社から金は出せないが、休みなら与えますよ。会社のためには、そっちの方が財産になりますから。

ルーブル美術館に行ってダヴィンチのマネをしてみても、ダヴィンチにはなれません。でもその努力は、絶対に必要。全てを真似する必要もないけど、偉大な人物の偉大な作品には学ぶべき点が多いです。

僕自身、偉人の家は旅に出ると必ず訪ねます。スケール持って、間取りの尺も調べます。こないだあるビジネスホテルに泊まった時も、あまりにコンパクトにうまくできていたのでやっぱり測りましたね(笑)。

個人的には、立派でゴージャスな家はあまり好きではない。ごちゃごちゃした中にも整然としている、ワンルーム的な家が好き。
人間は他人と何か違いたい生き物なんです。モノの考え方や価値観は住まいに表れるし、変わってもくる。一度きりの人生をいかに楽しむか、思い出に残るものにできるか、という点を大切にした家づくりをしていきたいですね。

営業・岡崎なつみさん

社員全員が個性的でとても楽しい職場です。
特に社長が建築だけでなく、歴史や地理など多趣味なので、話しを聞きながら仕事をするのが楽しいです。基本的にお客様と会話している時間はとにかく楽しいです。OB様とのお話も楽しいですし、年齢が近いOB様も多いので、プライベートでもお付き合いさせて頂いています。

岡崎なつみさんのインタビュー記事はこちら ››

取材:2017年1月25日

社名

株式会社大和工務店

住所〒501-3944 岐阜県関市山田881-4
TEL0575-28-2361
URLhttp://daiwakoumuten.co.jp