岐阜県多治見市市之倉は、陶工が多いことでも有名です。そんな「仕事は出来て当然」という厳しい職人気質の地域で、絶大な信頼を得ているのが有限会社 早川工務店様。代々受け継がれる確かな技術と責任感で、新たな次の時代へと向かいます。三代目社長である早川 正美さんと、四代目を担う早川 威佐夫さんにお話を伺いました。
―早川工務店の成り立ちを教えてください
正美さん
創業者である祖父は腕が良く、二代目の父は知恵の良い人でしたね。特に父は子供の頃から建築が好きで、雨の日も雪の日も近所の神社を見に行っていたような人でした。偶然そんな父に目をかけてくれたのが名古屋の宮大工で、小学校を卒業するとすぐに修行に出たと聞いています。当時の父の師匠に聞いた話ですが、人知れず夜中に図面を読んでとにかく勉強していたそうです。しかし戦争が始まって徴兵されて帰ってきたら、仕事場は丸焼けで何もなくなっていた。それで多治見へ帰ってきて、祖父と一緒に大工仕事を始めたのが当社の沿革ですね。そのうちに地元で名が知れて、「早川さんに頼めば大丈夫」という信用ができたわけです。
―お父様からは厳しく教えていただいた?
正美さん
私の場合、父から宮大工の技はいちいち教えてもらえなかったですよ。「見て覚えろ」のスタンスですから。そんなある日、地元の市之倉のお寺、永明寺の改修を私たちがやることになったんです。そこは下がコンクリートで、木造オンリーではなかったんですね。これはどうしたものかと、父も首を傾げてました。そこで私の師匠に助力を求めたら、応じてくれました。「じゃあうちに来るか」ということで48日間くらい朝6時から夜2時までみっちり仕込まれました(笑)。それで永明寺の仕事は無事、対応できました。途中で諦めていたら今日の早川工務店はなかったでしょうね。
この業界は、いい職人さんに巡り合わないと成り立たないんです。そういう意味では、ついていると思います。これまでも周りの職人やお施主様はいい人ばかりで、たくさん助けてもらいました。
―この家の特徴を教えてください
威佐夫さん
柱はヒノキで、梁はスギ。岐阜の自然の恵みをふんだんに使っています。それを大工が墨付けして、手刻みで建てている家です。設備はオール電化で4kwの太陽光パネルを乗せてあります。光熱費は冬場で+-ゼロ、夏場は2万円のプラスといったところです。住居とモデルハウスを兼用したこの家は、当社の推奨する「エアサイクル工法」で5年前に建てたもので、早川工務店のフラッグシップモデルとしました。
正美さん
私がこの工法と初めて出会ったのは昭和63年で、ちょうど何か人と変わったことをやろうと思っていた頃でした。これはフランチャイズに加盟しないと出来ない工法で、エネルギーは太陽の熱と風だけなんです。もちろん専用の部品は必要ですが、一度付けたら半永久的に持続可能です。以来エアサイクル工法でたくさんの家を建ててきたんですが、バブルが弾けて以来当社では一度やめていたんです。そんな時に息子が帰ってきて、もう一度やろうということになりました。
威佐夫さん
僕はこれまでハウスメーカーで修行したんですが、そこで早川工務店の凄さがわかりましたね。実はこっちに戻ってしばらくは、今後どういう路線で行けばいいのか悩んでいたんです。それこそメーカーの真似もしてみたりしましたが、それではあまりに没個性だし・・・。やはり早川工務店の技術の高さを活かした、うちでないと作れない家で勝負したいと思いました。ただし昔ながらの「和風の家」は今の人には受けないので、和風の良さを今風にアレンジした和モダンなテイストになりました。今後30-40年経っても色あせない、シンプルなデザインを意識しています。
正美さん
実際に住んでいらっしゃる方は、来客時に「暖かい・涼しい」と褒められる家です。そして、そういう時に口コミが生まれる。
威佐夫さん
口コミ、多いですね。あとはOB様からの紹介が多いです。本当はもっと営業しないといけないのですが(笑)。今はネットもあるし趣味嗜好が定まっている方が多いので、当社にご連絡いただけるお客様はこういうテイストが好きな方ばかり。ですので、ここに来てもらえればほぼ100%気に入っていただけます。
―どういう流れで家づくりは進んでいくのでしょう?
威佐夫さん
設計はビジネスパートナーの設計士と共に進めています。空間的にも工夫があって、天井が低いけどそう見えないようになっています。また家に入った時に、視線が奥へ抜けていくので広く感じるはずです。木組みにしても綺麗に見せることを意識したデザインです。
お客様との打ち合わせは、この家で設計士を交えて一緒にやります。その前にヒアリングシートをお渡しして、どんな暮らしをしているのかを教えていただきます。あとはそこに寄せてプランを考えるので、大抵の場合、決まるのは早いです。
余談ですが、当社はあまりベランダを作らないんですよ。エアサイクル工法は部屋干しで十分なので、必要ないんです。
正美さん
大工は自社大工が2名で、一人は私の弟です。もう一人は、勤続30年のベテランです。彼がうちに来たのは職業訓練所を出た16歳の時。その後うちに15年くらい一緒に住んでいて、同じ釜の飯を食った間柄です。
威佐夫さん
小学校5年生の頃に来たので、僕にとっては「兄貴」という感じで、家族のような付き合いですね。
正美さん
難しい仕事もきっちりやってくれて、しかもすごく綺麗。本当に「生きた仕事」をしてくれます。お客様の要望にも手間暇惜しまず、応えていく。棚ひとつ取っても、いい仕事しているでしょ?当然メンテナンスまで同じ大工が担当するので、隅から隅までその家のことをわかってます。これはお客様にとっても、安心じゃないかな。特にこの地域は近所付き合いが深いので、「玄関開いてるから勝手に入ってやってて」という感じです(笑)。これは当社の強みですね。
正美さん
この町だけで家が800軒くらいありますが、650軒くらいはうちが建てさせてもらっています。この辺り一帯はほとんどです。そうでない家の人も、早川工務店と言えば知っていてくれます。とはいえ世代が変わると、また違ってくるかもしれませんね。なぜかハウスメーカーの家が、いきなり建ってしまっている。という事態もなくはないですから。
威佐夫さん
陶工さんが多いこともあって街並みが綺麗ですので、それが崩れてしまうかもしれないのは残念です。
正美さん
小京都と言われた時期もあるくらいだからね。昔は京都から来た絵描きもたくさんいて、訓練として絵をたくさん陶器に残した。その名残が市之倉八幡神社の「陶天井」で、84枚の陶板が天井に奉納されています。これ、実はうちが手がけたものなんです。こうした仕事を任せていただけることは、やはり先代先々代に感謝ですよ。これから四代目がどう動いていくのかも、楽しみですね。
威佐夫さん
まずはこれまであまりやってなかった、オープンハウスもやっていきたいと思います。近く5月に平家を建てるので、まずそれはやりたいですね。エアサイクル工法も構造の段階で見ればすごくわかりやすいのですが、構造は女性に受けが悪いのが難点で(笑)。やはり大切なのは、家の出来上がりと光熱費の数字です。なんにせよ、一度来てもらって体感してもらうことが一番だと思います。特に多治見は日本で1,2を争う暑さですが、いかに夏涼しいかを知っていただきたいですね。ここで実際に生活しているので、具体的にイメージしやすいのではないでしょうか。自分の暮らしが丸見えになってしまいますが、そういう部分では協力してくれている妻にも感謝ですね。
取材:2017年3月17日
社名 | 有限会社早川工務店 |
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住所 | 〒507-0814 岐阜県多治見市市之倉11-181 |
TEL | 0572-22-3858 |
URL | http://www.hayakomu.com |