日本は戦後、復興を遂げて高度成長に伴い、大都市圏の人口が急激に膨張しました。その結果、核家族が一気に増え、住宅業界はそれに応えるように新築住宅の着工数を数十年の間、信じられないような数値を記録し続けてきました。核家族が戦後の日本の住宅産業を作ってきたと言っても良いのではないでしょうか。
一方、戦前の家づくりは、本家と新宅では経済、役割、責任、存在価値も大きな違いがあったようです。「家」を中心に組み立てられていました。本家が社会への貢献を担い、責任も負っていたのです。だからこそ、経済的な優位を持つことが許されてきたのではないかと思います。
現代では核家族のスタイルが普通になり、社会の中心に位置付けられているため、「○○家」の経済や役割、責任が大きく変わってしまったようです。私たち住宅建築関係者は、どんどん家づくりをすることで、個人中心の考え方をバックアップしてきたと言えるのかもしれません。
日本は、世界で最も稀に見るほど急速に高齢化社会になってきている国です。
戦後の住宅業界を支えてきた消費者(施主)が高齢者に近付いており、高齢者だけの1~2人住まいが世帯数の5割以上に迫り、結果、老老介護ということが現実になってきています。
もしものとき、「施設にお世話になれば良い」と考える人もいますが、高齢者向けの施設を充分に作れるかというと、今後の日本の財政上からも受け入れるだけの施設がつくれるかというと大きな疑問を感じます。さらに、最後を病院ではなく住み慣れた自宅で迎えたいという高齢者の方たちも増えています。「愛する家族に見守られながら逝きたい」というのは、自然なことではないでしょうか。そもそも「子どもに迷惑をかけたくないから施設に行く」というのは、核家族世代が日本社会の中心になってからの価値観ではないかと思います。
若いときは今の住まいでも不便を感じないでしょうが、70歳を超え始めると住生活が大きく変わりはじめます。一戸建住宅の住まいでは、2階のバルコニーに洗濯ものを干すことは少なくなり、個室は物置程度しか使わなくなります。庭があれば草取りや洗濯ができ、近隣とのコミュニケーションが取りやすいですが、共同住宅の住まいでは一日中室内で過ごすことが増え、近隣とのコミュニケーションも取りにくくなり、外部からの訪問介護もやりにくいため自宅内での老老介護になりやすく、孤独化し始める危険性があります。
そこでお勧めしたいのが、「減築」と「高性能住宅」です。安全で安心、快適な住宅に建て替え、住み替えていただく方法です。
小さな家であれば、断熱、耐震、介護のしやすさなど、住宅の性能を高めることができます。そして近隣とのコミュニケーション、子ども世帯との交流もしやすい住まいにすることができます。
課題は資金面だと思いますが、例えば地元不動産会社と地元工務店と手を組んで解決することが可能になっています。高齢者にとって大きすぎる敷地の一部を売って、建て替えの資金にしていただきます。売った土地は若い世代に買っていただき、新築一戸建住宅を建ててもらいます。一つの敷地を高齢者と若い世代がシェアするためには、都市計画法(建ぺい率や最小区画面積)も変える必要があるかもしれませんが、不可能な課題ではありません。
また、経験の多い高齢者は、快適で安全で居心地が良ければ資金繰りは自分たちで考えてくれます。何と言っても、自立型介護や元気な高齢者が増えれば、日本の次世代型社会の良い模範になるのではないかと考えています。
地元工務店の中には、空き家や空き地が多くなってきた郊外の団地などを再開発という形で、里山の住宅プロジェクトなどを行っているところもあります。
若い人たちと高齢者の人たちが共存できる新しい形の住まい方が出来つつあるようです。
ただし一つ注意が必要なことがあります。既存住宅をリフォームする場合で解決しにくいのが、家を小さくすることです。
増築する、改築することは慣れている工務店は多いのですが、減築の経験があるところはかなり少ないです。なぜかというと、住宅供給側から見るとデメリット(売り上げにつながらない、儲からない)が多いからなのですが、住まい手に取ってのメリットは大きいはずです。国も空き家対策への政策も進んでおり、リフォーム促進の動きに拍車が掛かっています。
高齢化社会の中でのこれからの住宅のあり方として、「耐震診断」や「補強工事」などを踏まえた延長上に選択肢として、「既存宅の減築」や「中古住宅の高性能化」を考えの中に入れるのもありだと思われます。